サンゴ白化速報

小笠原諸島聟島列島父島列島における造礁サンゴ類の白化状況(速報)

2009年8月30日

特定非営利活動法人
小笠原自然文化研究所
佐々木哲朗・鈴木創

I. はじめに 小笠原諸島は、2003 年に母島海域において大規模な白化が確認されて以来、造礁サンゴ類の深刻な白化は観察されていない。しかし、今シーズンは 7 月から 8 月にかけて 海水温の高い状態が続き、暖水渦の接近に伴う異常潮位も観測されている。父島の二見湾では 8 月中旬頃から、浅瀬海面下のサンゴ礁全体が明らかに白く感じられるようにな った。そこで、当研究所は 8 月 20 日から 25 日にかけて、聟島列島嫁島、父島列島兄 島および父島周辺海域の合計 8 地点において、スポットチェック法による簡易な観察に より、造礁サンゴ類の白化程度について予備的な観察を実施した。本報告は観察結果を 速報として取りまとめたものである。

II. 本調査における調査項目の定義
・サンゴ被度: サンゴが生育可能な基質面積に対するサンゴ生育面積の割合。砂底や礫 底は分母から除外。
・ 白化率: サンゴ全体に対する純白(またはそれに近い白色)部位の割合。
・ 群体白化率: サンゴ全群体に対する白化部位を持つ群体の割合。スギノキミドリイシが高密度に生育する二見湾奥 St. 1 において計測。
・主要生育種の白化率: 出現頻度の高い種(またはグループ)内における白化部位の割 合。

III. 観察結果
○地点 1: 聟島列島嫁島西岸
調査日: 2009年8月25日
調査水深: 1m~15m
サンゴ生育型:多種混合型
サンゴ被度: 約 40%
白化率: 約 70%
主要生育種の白化率: イボハダハナヤサイサンゴ(90%)、ヘラジカハナヤサイサンゴ(5%以下)、コモンサンゴ属各種(約 90%)、サボテンミドリイシ(約 80%)、被覆状 ミドリイシ類(オヤユビミドリイシ他)(約 90%)、クシハダミドリイシ(約 90%)、そ の他のミドリイシ属小型種(約 70%)、コブハマサンゴ(約 60%)、小型塊状キクメイ シ類(コカメノコキクメイシが優占)(約 50%)。

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白化したイボハダハナヤサイサンゴ群落(水深 1m 付近) 白化したサボテンミドリイシ(水深 4m 付近)
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水深 12m 付近の海底 白化したコブハマサンゴ.褐色に見える中央部は藻類 が付着している.(水深 4m 付近)

○地点 2: 父島列島兄島北端(弟島瀬戸)
調査日: 2009年8月23日
調査水深: 1m~3m
サンゴ生育型:多種混合型

サンゴ被度: 約 25%
白化率: 約 40%
主要生育種の白化率: イボハダハナヤサイサンゴ(約 30% ※色が淡くなっている率は 約 80%)、ヘラジカハナヤサイサンゴ(1%以下)、サボテンミドリイシ(約 70% ※全 て骨格異常群体)、クシハダミドリイシ(約 90%)、被覆状ミドリイシ類(オヤユビミドリイシ他)(約 60%)、小型塊状キクメイシ類(ヒラノウサンゴ、ナガレサンゴ等)(5% 以下)

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水深2m付近の海底.コブハマサンゴは無事だが、
周囲のイボハダハナヤサイサンゴは色が淡くなっている.
白化した骨格異常のサボテンミドリイシ.
(水深 2m 付近)

○地点 3: 父島列島兄島キャベツビーチ
調査日: 2009年8月23日
調査水深: 1m~6m
サンゴ生育型:多種混合型(水深 2m 付近)

サンゴ被度: 約 70%
白化率: 5%以下
主要生育種の白化率: サボテンミドリイシ(1%以下)、クシハダミドリイシ(5%以下)、 被覆状ミドリイシ類(オヤユビミドリイシ他)(約 10%)、小型塊状キクメイシ類(ヒ ラノウサンゴ、ナガレサンゴ、コカメノコキクメイシ等)(1%以下)。

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水深 3m 付近の海底 サボテンミドリイシ群落(水深 6m 付近)

○地点 4: 父島列島父島宮之浜湾口(兄島瀬戸)
調査日: 2009年8月23日
調査水深: 3m~5m
サンゴ生育型:多種混合型

サンゴ被度: 約 50%
白化率: 5%以下
主要生育種の白化率: サボテンミドリイシ(5%以下 ※色が淡くなっている率は約 10% で、全て骨格異常群体)、クシハダミドリイシ(5%以下 ※色が淡くなっている率は 10% で、全て骨格異常群体)、被覆状ミドリイシ類(オヤユビミドリイシ他)(約 40% ※全 て骨格異常群体)、小型塊状キクメイシ類(ヒラノウサンゴ、ナガレサンゴ、コカメノ コキクメイシ等)(5%以下)。

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水深 3m 付近の海底 部白化しているクシハダミドリイシ.
骨格異常 と思われる群体(水深 2.5m 付近)

○地点 5 父島列島父島二見湾奥 A(製氷海岸)
調査日: 2009年8月20日
調査水深: 1m~15m
サンゴ生育型: スギノキミドリイシ優占型
サンゴ被度: 約 90%

白化率: 約 10% (深度別 1~5m: 約 30%、5~10m: 約 10%、10~15m: 1%以下)
群体白化率: 約 45% (深度別深度別 1~5m: 約 90%、5~10m: 約 50%、10~15m: 1%以下)
主要生育種の白化率: スギノキミドリイシ(約 10%)

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水深 3m 付近の海底

水深 7m 付近の海底

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白化部位は先端の数 cm~30cm 程
(水深 2m 付近)

青色タイプの群体では白化はみられなかった
(水深 3m 付近)

○ 地点 6: 父島列島父島二見湾奥 B(製氷海岸)
調査日: 2009年8月20日
調査水深: 1m~7m サンゴ生育型:多種混合型

サンゴ被度: 約 50%
白化率: 約 60%
主要生育種の白化率: コモンサンゴ属各種(約 90%)、サボテンミドリイシ(約 70% ※ 大半が骨格異常群体と思われる)、小型塊状キクメイシ類(コカメノコキクメイシが優 占)(約 60%)、オオサザナミサンゴ(50%)、ナガレハナサンゴ(60%)

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水深 3m 付近の海底. 多くの種が白化している.

水深 6m 付近の海底.白化したサボテンミドリイ シの骨格異常群体.

○ 地点 7: 父島列島父島巽中海岸
調査日: 2009年8月21日
調査水深: 1m~8m
サンゴ生育型: アザミサンゴ優占型
サンゴ被度: 約 50%
白化率: 約 1%以下
主要生育種の白化率: 被覆状ミドリイシ類(オヤユビミドリイシ他)(1%以下)、アザ ミサンゴ(1%以下)、小型塊状キクメイシ類(ヒラノウサンゴが優占)(5%以下 ※色 が淡くなっている率は 40%)、オオハナガタサンゴ(1%以下)

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水深 4m 付近の海底.
アザミサンゴ群落には目立 った白化がみられなかった.
水深 3m 付近の海底. ミドリイシ類の白化も軽微.

○地点 8: 父島列島南島サンゴ池(南島瀬戸)
調査日: 2009年8月23日
調査水深: 3m~5m
サンゴ生育型: 卓状ミドリイシ優占型
サンゴ被度: 約 40%

白化率: 約 30%
主要生育種の白化率: サボテンミドリイシ(10% ※全て骨格異常群体)、クシハダミド リイシ(約 40% ※全て骨格異常群体)、被覆状ミドリイシ類(オヤユビミドリイシ他) (約 70% ※このうち 40%が明らかな骨格異常群体)、小型塊状キクメイシ類(ヒラノ ウサンゴ、ナガレサンゴ、コカメノコキクメイシ等)(5%以下)。

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水深 4m 付近の海底.
クシハダミドリイシの骨格 異常群体が白化している.
クシハダミドリイシの健全な群体
(. 水深 2m 付近)
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クシハダミドリイシの白化群体.
骨格異常がみら れる. (水深 3m 付近)
骨格異常部の拡大写真.

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図. 各調査地点の白化率
※数値は調査地点番号を示す.

IV. まとめ

○白化状況の経年比較
本調査から、父島列島海域では少なくとも過去 6 ヶ年で最大の白化被害が進行してい るといえる。当研究所は 2004 年から父島兄島周辺のサンゴ礁モニタリング(環境省モ ニタリングサイト 1000、自然環境研究センター委託事業)を行ってきた。今回調査し た地点のうち、4 地点はモニタリングサイト 1000 の調査地点と重複している。重複地 点の過去データと本調査結果を比較すると、4地点中3地点で過去の白化率を上回って いる。

○ 主な白化種
白化率の高い種は、コモンサンゴ類、ミドリイシ類が特に多く、次いで、イボハダハナ ヤサイサンゴ、キクメイシ類、ハマサンゴ類であった。ヘラジカハナヤサイサンゴは、 他種の多くが白化している地点においても、白化率は極めて低かった。

○海域の環境条件と白化率の関係
本調査結果からは、白化の程度と海域の環境条件との関連性は明確には評価できなかっ た。父島海域は一般的に、二見湾内を代表とする内湾的な環境と、兄島瀬戸の様な外洋 的な環境に大別でき、高水温の影響は内湾の地点において顕著である。本調査からも、 二見湾奥(地点 5, 6)では白化率が高く、兄島瀬戸に面したキャベツビーチ(地点 3) および宮之浜湾口(地点 4)では今のところ目立った白化がみられていない。一方で、 嫁島西海岸(地点 1)や兄島北端(地点 2)など、潮通しが良いと思われる地点におい ても高い白化率を示した。今後、暖水塊の停滞状況のデータや昼夜の温度差など、他の 要因を含めた評価が必要と思われる。

○病気と白化の関連性
二見湾奥 B(地点 6)および南島瀬戸(地点 8)で確認されたミドリイシ類の白化群体 の多くは、骨格異常(腫瘍)と思われる群体であった。骨格異常の群体と健全な群体と では、前者の方が白化に対する耐性が低い可能性がある。小笠原諸島では、モニタリン グサイト 1000 事業において病気の調査が開始されているが、詳細な発症状況は解って いない。早急な現状調査が必要である。

V. 謝辞

本調査は、東京海洋大学水産生物研究会から参加した当研究所夏期研修生諸氏 にご協力頂きました。また、調査を行うにあたり、(財)自然環境研究センター の木村匡研究員に有益なご助言を賜りました。ここに深謝いたします。

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