コハクチョウ2006

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人から離れて生活している個体〜父島扇浦にて

さて、1月の半ばのこと、母島を訪れると、ハクチョウ達は島でもっとも人が行き交う、町場に面した浜辺に降りて、人のすぐ足元にまですり寄って餌をねだるようになっていました。また、一方では衰弱して脱落する個体も出始めていました。その2週間前には、元日の海開きイベントの上空を飛び、島の話題となったコハクチョウ4羽。その後、父島・自然文化研究所から餌やり自粛の声が届くも、毎日、人の足元までやってくるコハクチョウ。また10年前から見ることができるようになったテレビをつければ、「今年は厳冬で、ハクチョウ類の南下が各地で相次いでいるというニュース。」さらに、そこには、各地の池や沼で、珍客ハクチョウに盛んに餌をまく、数え切れない人の姿がありました。
写真:あまり人を寄せない個体もいた。父島扇浦の1羽。恐らく、10羽をこえる最初の目撃集団ではいっしょだったと思われる。さらに、お正月以降に目撃された4羽からはぐれたことも考えられるが、本当のところは、わからない。

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 ウトナイ湖(北海道:撮影9月)
冬季にはガン・カモ仲間の大集団が飛来する。

内地(本土)では?

というわけで、群れからはぐれた鳥で、かつ人工給餌を経験したと思われる個体は、迷行先でも人を頼って集落地域に降りてトラブルを発生させる可能性がより高いために、餌付け個体と判断されたら早々に捕獲→移動(大きな群れにまぜる)するといった、対処法が出てくるわけです。

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父島奥村にて

2)何が問題なのだろう?
人に餌をもらうことを覚えたハクチョウの問題を考えてみます。
ひとつは、人との直接的な問題です。
ハクチョウ類は、大きな白い身体、優しそうな顔つきなどから、たちどころに人気者になりますが、実は気が強く、攻撃性もあるため、近づいた子供が顔をつつかれ・・・などとという事故がよく発生するようです。また、人の生活圏内にも平気で降りてしまうゆえに、交通事故、人工物等への衝突などを起こす可能性が高く、いざ事故となれば、巨体ゆえに、人の側にも危険が及ぶことになります。

そして、もっとも深刻なのは、餌やりをきっかけにした生態系の攪乱です。家族を増やして再飛来する習性があるために、個人的な数羽への餌やりが、数年後の「白鳥の郷」誕生に結びついてしまいます。このため、人為的に出現した越冬地が、内地ではどんどん増えています。でも、そのような地域には、もともと沢山のハクチョウを迎えるだけの自然資源(食物)はないわけですから、年ごとに飛来数を増加させるハクチョウを、文字通り「白鳥の郷」を自覚して(お金をつくって)、人工餌で養い続けなければならなくなります。

このようなことから、近年、先駆的な鳥獣保護施設や野生動物専門家における迷いハクチョウに対する選択は、以下のようになりつつあります。
1)地域合意の上、餌やりをしない(弱っても、死んでも)と決められるならば、自然の一場面として見守る。
2)餌やり(=人)がコントロールできない場合には、餌付け個体が引き起こすさまざまなトラブルが発生する前の段階で、早々に捕獲して、本来の越冬地に人為的に戻す。
実際には、野生動物との共存の仕方が、熟していない(追いやる、餌付けなど両極端)、日本では後者の場合が多いようです。これは、「地域合意の上、餌やりをしない」という、シンプルな言葉の実現の難しさを物語っています。

 小笠原から搬送されたコハクチョウ2羽は、昨日無事に福島県に搬送されたようです。まずは、良かった。関係者の方々ご苦労さまでした。さて、コハクチョウの話題もこの数年で2度目となりました。でも、どうでしょうか? どうしてワザワザそんなこと(捕獲・搬送)をしたのか? と疑問の方もいらっしゃると思います。報道されない部分ですが、当研究所でもコハクチョウ発見以来、さまざまな方々と情報や意見の交換をしてきました。このやり取りを(i-Boからの発信抜粋)をご紹介しながら、小笠原から垣間見えるハクチョウ問題?について、少〜し考えてみたいと思います。

1)増える・戻る
以前、当研究所の季刊誌i-BoやHPにも書きましたがハクチョウ類は餌付け越冬させると、恐ろしい確率で数年後、 倍増(家族を増やして)再飛来します。とくに家族で3年間越冬できた場合には、育った幼鳥が確実に子供を連れて戻ると考えられています。ハクチョウやツルなどでは、かつて、減少した野生個体群への補助等として始まった餌やり(当初は困難で餌付けの成功がニュースになったようです)が、現在では無秩序に一般化してしまい、餌やりに支えられたいわば人工的な越冬地が、たくさん出現しています。本州で越冬するオオハクチョウ、コハクチョウ数は、1980年代後半から2003年の間に2倍近くに増加しているという意見もあるくらいなのです。ですから、前は鳥がいなかったのに、今は「ハクチョウの郷」(地域のシンボル)になっていたり、ごく数羽が飛来する場所だったのに、今は何十、何百羽が飛来するという場所が、東北、関東地方にはわんさか出現しています。

さてさて、そんなわけで、一時は野鳥への接し方や、動物愛護のシンボルにさえなっていた越冬ハクチョウへの餌やりも、近年では、ゆるやかながら悩ましい問題に変わりつつあるようです。それでも、本州から1000km離れた洋上の孤島群である小笠原では、再飛来は「ありあえない」と思い、数名の野生動物を専門とする獣医さんにお聞きしたところ、完全給餌で越冬させれば、間違いなく戻ってくるだろうとの同じご意見を頂いたのでした(2002-03年に小笠原にコハクチョウが飛来した際に)。

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東京の施設搬入直後(1月30日)

捕獲後約1週間の水絶ち状態。よほど水に飢えていたのでしょう。成鳥はためらいなく、水桶に入ってしまいました。この日から数日間の検査が始まりました。


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